玄関アプローチが滑る。素材別のすべりやすさと、あとからできる対策

「玄関アプローチが滑るんです」という連絡は、毎年10月から3月にかけて増えます。工事の打ち合わせでは誰も話題にしなかった場所です。私は外構の会社をやっていますが、引き渡したあとにこの電話をもらうのがいちばん堪えます。
滑る原因は素材だけではありません。同じタイルでも、貼る場所と水の行き先で結果が変わります。この記事では、素材ごとのすべりやすさと、いま貼ってあるものを剥がさずにできる対策を書きます。
滑るのは大雨の日ではなく、乾きかけの朝

雨の日より、朝いちばんのほうがヒヤッとするんです。気のせいでしょうか。

気のせいではありません。全面がしっかり濡れているときより、うっすら湿っているときのほうが滑ります。
現場でヒヤリの報告が集まるのは、朝の霜、夜露が乾ききっていない時間帯、そして落ち葉が濡れて貼りついた日です。水がたっぷりあると靴底の溝が水を逃がしてくれますが、薄い水膜と、そこに乗った土や苔の粉は逃げ場がありません。ここが滑りの正体です。
だから対策は「濡らさない」ではなく、「薄い水膜と汚れが居座る場所を作らない」になります。
「滑らない」には数字の基準がある
感覚の話に聞こえますが、床の滑りにはきちんと数値の目安があります。日本建築学会の材料施工委員会がまとめた「床の性能評価方法の概要と性能の推奨値(案)」(2008年6月)では、履物をはいて歩く敷地内通路や出入口について、滑り抵抗係数C.S.R.が0.4以上を推奨値としています。傾斜路は勾配の分だけ厳しくなり、C.S.R.から傾斜角のサインを引いた値が0.4以上とされています。
この数字が役に立つのは、外床用タイルを選ぶときです。メーカーのカタログには商品ごとにC.S.R.値が載っていることが多く、担当者に聞けば出てきます。「玄関まわりに使えますか」と聞くより、「この商品のC.S.R.はいくつですか」と聞いたほうが話が早いです。数字が出てこない商品を、坂になっているアプローチに使うのは避けたほうがいいと思っています。

社長、施主さんから「滑りにくいタイルで」と言われたら、何を基準に選べばいいですか。

C.S.R.の値と、表面の凹凸の向きです。凹凸が一方向だと、その向きによっては水が抜けません。歩く方向と水が流れる方向を、図面の上で一度合わせてください。
素材別のすべりやすさ
磁器タイル
外床用として売られているものは、表面にざらつきや凹凸をつけて滑りにくくしてあります。危ないのは、室内用や壁用のタイルを見た目で選んで外に使ってしまうケースです。ツルッとした光沢のあるタイルは、濡れると本当に滑ります。ショールームの乾いた床で判断しないでください。
乱形石・自然石
自然の凹凸があるので、素材としては滑りにくい部類です。ただし目地が広く低いと、そこに水と土が溜まって苔の温床になります。苔が乗った石はタイルより危険です。石を選ぶときは、仕上がりの美しさと同じくらい、下地と水勾配を見てください。詳しくは乱形石貼りの施工価格とキレイの基準に書きました。
洗い出し・土間コンクリート
洗い出しは砂利の頭が出ているので、外構の中ではかなり滑りにくい仕上げです。土間コンクリートは仕上げ方で差が出ます。刷毛引きは筋の分だけ食いつきますが、金鏝でツルツルに押さえた面は、濡れるとよく滑ります。駐車場は水はけを考えて刷毛引き、玄関前は見た目重視で金鏝、という組み合わせをよく見かけますが、逆に危ないことがあります。ひび割れの話とあわせて土間コンクリートのひび割れの判断基準も見ておいてください。
インターロッキング・枕木・木材
インターロッキングは表面がざらついていて、目地から水が抜けるので条件は悪くありません。危ないのは木です。天然木も人工木も、日陰で濡れたままの木は想像以上に滑ります。北側で日が当たらない場所に木のステップを置く計画が出てきたら、私はほぼ必ず止めます。
現場で私が見ている3つ
1つめは水の行き先です。どんなに滑りにくい素材でも、水が溜まる場所を作れば意味がありません。アプローチのどこが低いのか、その水は最後どこへ出ていくのか。図面の段階でここを聞いて答えが返ってこない会社は、現場でも考えていません。
2つめは日当たりです。建物の北側、塀と建物にはさまれた通路、常緑樹の下。この3つは乾きません。乾かない場所には、乾かない前提の素材を選びます。
3つめは段差の位置です。滑って転んでも、平らな場所なら尻もちで済みます。危ないのは、段差の1段目で滑ることです。踏面が狭い階段、上りきったところにすぐ玄関ドアがある納まり、こういう場所は素材を優先的に安全側へ振ります。

段鼻に滑り止めの溝が入っている石を使うだけで、体感はだいぶ変わります。段の先だけでいいんです。
いま貼ってあるものを剥がさずにできること
すでに工事が終わっている場合でも、やれることはあります。費用の順に4つ挙げます。
掃除の仕方を変える。いちばん安く、いちばん効きます。苔と土の粉を残さないことです。デッキブラシと水で落として、落ち葉は溜める前に掃く。高圧洗浄機を使うなら、目地に直接当てず、少し離して。酸性の強い洗剤をいきなり全面に使うのはやめてください。石やタイルの表面が焼けて戻りません。
手すりを1本つける。滑りをなくすのではなく、滑ったときに転ばないようにする発想です。段差のある場所に1本入れるだけで、事故の重さが変わります。後付けできる製品はたくさんあります。
防滑(滑り止め)施工。薬剤で表面に微細な凹凸をつくる工法があります。既存の床を剥がさずに施工でき、見た目もほとんど変わりません。ただし素材との相性があるので、必ず目立たない隅で試してもらってください。仕上がりを見ずに全面を頼まないことです。
部分的に貼り替える。全面をやり直す必要はありません。危ないのは階段の段鼻と、玄関ポーチの一枚目です。そこだけ滑りにくい材料に替える、あるいは屋外用のノンスリップ材を段鼻に取り付ける。この部分工事がいちばん費用対効果が高いと思っています。
これから決める人がやるべき、たった1つのこと
サンプルを濡らして、靴で踏ませてもらってください。
ショールームでも、現場でも、コップ一杯の水があればできます。乾いた状態のサンプルを手で触って選んだ材料が、濡れるとどうなるか。これを一度やっておくだけで、引き渡し後の後悔はかなり減ります。断られる会社なら、そこは選ばなくていいと思います。

外構は、竣工写真がきれいかどうかより、10年間そこを毎日歩けるかどうかです。滑るアプローチは、毎朝ちいさく後悔します。
まとめ
- 滑るのは大雨の日より、うっすら湿った朝と、苔・落ち葉が乗った日
- 外床の滑り抵抗係数C.S.R.は0.4以上が推奨値(日本建築学会「床の性能評価方法の概要と性能の推奨値(案)」2008年6月)。傾斜路はさらに厳しく見る
- 光沢のあるタイルと、日陰の木は避ける。洗い出しと刷毛引きは滑りにくい
- 素材より、水の行き先・日当たり・段差の位置を先に決める
- 工事後でもできるのは、掃除の見直し、手すり1本、防滑施工、段鼻だけの部分工事
- これから選ぶなら、サンプルを濡らして靴で踏む
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